慎二の言葉に、ますます目を大きくして絶句する。二人とも、美鶴や慎二よりはずっと年上だ。
かろうじて口を開いた一人は、胸ほどの長さの髪に適当なボリュームを加え、両側を後ろで留めている。露になった両の耳には、ゴールドのフープイヤリング。胸元には、同じくゴールドのネックレス。
ラメの入ったピッタリとした黒のパーティードレスは、体型が整っていなければ着こなせないだろう。
横の女性は、赤く染めた髪を豊かに持ち上げ、髪と胸元と耳と指と…… すべてを真珠で統一。
一見すると、どちらも非常に華やかな出で立ち。だが、嫌味は感じさせない。
なぜであろう? それぞれの持つ美しさを、披露はしても衒っているワケではないからだろうか? その立ち姿には、品格すら感じられる。
そんな彼女らが二人して目をパチクリさせている様は、この優雅な会場には実に滑稽だ。
どれほど待っても大した反応を見せない相手に、慎二は嘆息した。
「何か、気に障るコトでも?」
その言葉に黒ドレスの女性がようやく我を取り戻し、ハッと口を開く。
「友達…… を連れてくるんじゃなかったの?」
「えぇ」
そんなコトかとやや呆れ気味に、顔を美鶴へ向ける。だが視線は女性へ向けたまま。
「お友達ですよ。大迫美鶴さん」
「大迫?」
訝しげに凝視する。
まるで品定めでもするかのように視線を上下させられては、こちらとしてはあまり気分がよろしくない。
だが、だからと言ってどうすれば良いのかわからずゴクリと生唾を飲み込んだところに、慎二が再び嘆息した。
「あんまりジロジロ見ないでください。失礼でしょう?」
そんな慎二の態度に女性は眉を潜めると、右手を伸ばしてグイッと腕を掴んだ。
「ちょっと来なさい」
だが慎二は、応じない。
「何です?」
「いいから、ちょっと来なさい」
さらに強くひっぱる。だがそれでも、慎二は応じない。
「ちょっと来なさいよ。話があるのっ」
「話? ここではダメですか?」
その言葉に、女性はサッと美鶴を見た。
「説明しなさいよ」
声を落してジロリと見上げる。
「どういうコトよ?」
「何が?」
「何が? 惚けないでよね」
「惚けるなんて」
意味がわからないと言った様子で肩を竦める。
だが、心の奥底では相手の言わんとする意味を理解しているのだ。
本当に微かだが、慎二の口元に浮かぶ笑み。美鶴は直感した。
「あっ あの」
どうしてよいのかわからず口を挟もうとする美鶴を、慎二はやんわりと見下ろした。
「あぁ すみません」
そう言って、少し身を屈める。
「こちらは、私の母ですよ」
紹介され、女性はパッと腕を引っ込めた。そうして、小さく咳払いをしながら、こちらへ顔を向ける。
「霞流聖美です」
向けられたのは笑顔。だが、それは心からのモノではないだろう。直前の態度を見れば、誰にでもわかる。
霞流聖美もそれは理解しているらしい。この期に及んで満面の笑みを湛えるつもりはないようだ。その笑みは、ごく曖昧なモノ。
「大迫…… さん、でしたわね」
確認するように首を傾げる相手に、返事をする。
「はい」
「こんにちは。初めまして」
「あっ 初めまして」
この人が、霞流さんのお母さん。
改めて対峙すると、その華やかさが目に眩しい。なるほど、息子とは対照的に、賑やかな場所がずいぶんと似合いな女性だ。
その女性が、笑みを残したまま眉をチロッと上げた。
「で? 慎二とは、どのようなご関係で?」
きたっ!
誰かに紹介されれば、避けては通れないとわかっていた質問。だが、どのように答えればよいのか、明確な答えを用意はしていない。
しかもいきなりお母様かよっ!
と… 友達。
いや、それはすでに慎二から告げられている。聖美は、もっと具体的な内容を問うているのだ。
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